ホタルの夜の記憶

離れて暮らす私の母親が加齢に伴ってというのか、加速度的にというのか、
とにかく記憶があいまいになってきています。
子どもとしては、とても心配で・・・・この頃は頻繁に電話をかけて、
何か変わりはないか問うことが増えてきました。


県外に暮らす弟は昔からとても優しい人で、積極的に母親の症状を
見守り、また、遠方から治療の付き添いのために駆けつけてくれます。


認知症の治療って一般的には本人のプライドが邪魔するためか、
難しいことも多いらしいけど、弟の母を思う気持ちが暖かく伝わり、
嬉しく思えたのでしょう、母は弟の助言を「ありがとうね」
と素直に受け入れて、難なく受診に至りました。


この頃弟は、母の記憶が確かなうちにと、いろんなところに
ドライブに連れていったりと、楽しい刺激を増やしてくれています。


あれは6月の初旬だったかな・・・
急にホタルを見せたいと言って、
弟が母親を連れて私の住む田舎の町を訪れました。
私の家からホタルが群生する集落まで
真っ暗な山道を車を飛ばして30分。
幻想的なホタルの放つ光に目を奪われて、たたずむこと数十分。


ホタルを生まれて初めてみたという母にとって、この夜のホタルは
思った以上に美しかったようで、母は何度も何度も「キレイやね」
を繰り返していました。


この夜のこと忘れて欲しくないな・・・・でもいつか忘れるんだろうな。
この日の記憶があるうちは、まだ大丈夫かな・・・
なんて、勝手に基準を作ってみたりして・・・。


今日、母と電話で話していて、「ホタルはホントきれいだったね〜」
と言われて、覚えてくれてたんだ、とホッと一安心したのもつかの間、
「・・・で、あれは誰と行ったんだったっけ?」にガクン。


弟が遠方からはるばる駆けつけて、夜のドライブに誘ってくれたのに・・・。
弟が誘ってくれたことをあんなに喜んでいたのに・・・。
でも、仕方ないね・・・おかあさん。


どう返事を返せばよいのか、言葉に詰まる私に、
母は明るく笑います・・・
あ、そっかそっか・・・めげないめげない・・・って感じで。。。
きっと内心は記憶が薄れゆくことが怖いのではないかな・・・
でも周囲には明るい姿しか見せない母。
人のこころをなぜか明るくする天性の性格。。。
この明るさを私は受け継ぎたいと思う。


記憶が薄らぐのは仕方無いことだけど、
この明るく楽しい性格のままで
つらいことは忘れて
楽しい記憶だけは残してくれたらなあ・・・
でもそんな甘いものではないのだろうと覚悟しつつ
明日も母に電話をかけます。